救急車より愛を込めて~ブロン錠の白、胃洗浄の黒~

誰がこの文章を読むかわかりませんが、先に述べておくことがございます。

この一連の出来事に関わった友人、知人、そして両親、親戚に多大なるご迷惑とご心配をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。

関係した人物の多さに、ことの重要さと無知で視野狭窄に陥った自分がどんなにひどいことを巻き起こしたかということに対し、深く反省しておりますことを勝手ながらご理解くださいませ。

そしてそのことが大きな精神安定の効果をもたらしているということを知っていただきたく思い、感謝の辞を申します。

 

先月に続き私はまた死のうとしていた。何が原因だったかは、最早定かではない。

私はしょっちゅう、自分を絶望からの死に追い込まないために、次々と約束を立てる。

約束事のあるスケジュール帳、アルバイトの予定表を眺めていた。それはどちらも自分の誇りであり生きる糧でもあった。

しかし何故だか、急に何もかもが不可能になってしまっていて、気がつけば非常に強力な鎮静作用のある睡眠薬を30錠服用した。

それをしていることを自覚したのは遅く、もはや行為が起爆剤となりストックしておいた様々の種類の睡眠薬、精神安定薬、鎮痛剤などを次から次へと消費していった。

ゼリーに混ぜて勢いよく飲む、否や食べ尽くした薬を包んだシートはあっという間に山積みになっており、100錠はゆうに超えていた。 このまま死ぬのだと思った。

服毒による死は望めなくとも、昏睡状態に陥り十数時間後には簡単に窒息死しているだろうと考えていた。

簡単な遺書めいたもの、なんの感傷もなしの自身の死後の身辺のことについて書き連ねたものを机上に置き、意識が落ちるのを待つように、死を目前に控えた罪人のように一服していたのだが、なかなかそう簡単に意識は落ちてくれない。

 

友人からの連絡に出る。

電話をしていたところで私の意識は途絶えた。

 

 

それから1日と半日が経ち、私は朦朧とした意識のなか母の顔を見た。そこはICUであった。横たわりひどい発熱と肺炎を起こしていたようで、目を開けるやいなや私の悪事の一部始終を聞いた。

どうやら友人の連絡により救急車で搬送され、胃洗浄を受けていた後だったようだ。

意識を取り戻し、重い上体を起こすや否や、看護師になにかオレンジジュースの味のする透明な液体をたっぷりと飲まされた。それが下剤であったことは後ほど知った。

 

よく、咳止め錠をオーバードーズするとその糖衣錠から白い便が出ると聞くが、胃洗浄を受けると真っ黒な便が出る。

あまりの不自然な黒さに私は驚いた、体から異物が出ている!

どうやらそれは胃洗浄をした後に体に活性炭を取り込み炭に毒物を染み込ませ、それがそのまま出てくるからとの事だった。 そのICUにて車椅子なしで移動ができるようになった頃合いには、これから医療措置入院で精神科の閉鎖病棟に移動する、との話を聞いた。 受け入れ先の病院のベッドの手配が出来、翌日にそちらに移動することの運びとなった時ちょうど新しく救急の患者が搬送されて来ていた。

私と入れ替わりにまた、オーバードーズによる胃洗浄を受けた患者が下剤を飲まされている光景をはっきりとした意識で目の当たりにした。

 

自殺未遂はつね日頃からおこなわれている。

入れ替わり、立ち替わり、自殺に失敗した患者の複製の処置がそこで行われており、私はその一人だった。