閉鎖病棟からこんにちは〜Kranke〜
オーバードーズによる窒息死を狙っての自殺未遂は失敗に終わり、代わりに多くの人からの心配を買ってしまった。
ナンバーキーと医療従事者の持つカードキーで厳重に鍵のかけられた四階の病棟へと案内される。そそくさと面会が行われ、入院に関する説明を受け、それらの書類にサインした。
それから、病棟へと通された。患者達と遭遇しつつ四人部屋のベッドで軽く挨拶を済ませた。
病棟には、未だかつて見たことのない風景が広がり快適に保たれているにもかかわらずどこか湿っぽい空気が充満していた。
そこにいるほとんどが、私にとって正直人間には見えなかった。人間の形をした別の何かに思えた。悲しくなった。
その人間の形をした者達はみな表情が抜け落ちており、どこか上気した頬に目は虚ろで、円形をした作りの病棟内を何周も何周も、あたかも足枷をされた囚人のようなするびく姿勢で歩き回っていた。
おそらくそうさせられるまで投薬によってコントロールしなければ、そう歩き回ることさえ困難な状態に陥ってしまう人々だったのだろう。
そして、病棟内の制限はとても厳しいものであった。母親に様々なものを家から持ってきてもらった。着替えからリングメモ、ボールペン、好きな本、iPod。それらのほとんどが、看護師によって没収された。
リングメモはリング部分が凶器になり得る、とのことでNGを出された。
履いていたスニーカーの紐は全て引っこ抜かれ親元へと回収され、そしてその場で服を脱がされ、手荷物検査をさせられた。
何も凶器になるものを持っていないことが確認できたのちに右手に番号の書かれたリストバンドを付けられた。
やはり、まるで刑務所ではないか。
情報源はホールにあるテレビ、そして新聞、あとはホールに置かれているおそらく検閲済みの本くらいのものだった。
情報統制がなされていることもそう思う一つの理由だった。
母には、着替えのTシャツを全て指定して持ってきてもらった。
何処であろうが、少しでもお気に入りの服を着て居たかったから。
ラッドミュージシャンとmilkboyのTシャツにきのこ帝国、Syrup16gのバンドTを持ってきてもらうよう頼んだ。
それらも看護師によってチェックされた。
買ったばかりのラッドミュージシャンの8000円のTシャツは見るも無惨にタグに名前を書かれてしまった…。
そこでひとつだけ、没収されたものがあった。
看護師によれば「このデザインは他の患者さんに危害を与えかねないメッセージが書かれているので…」と言われたのはSyrup16gの「再発」ツアーのTシャツだった。
ちょうどその日、彼らは東京での公演「Kranke」リリースツアーを行っていて「患者」と書かれたTシャツを売っていたけれど、それなら良かったのかな。患者だし。他の患者さんも患者だし…。